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エール ~インタビュー~

これまでの価値観にしがみつくのは馬鹿らしい。生活をちょっとセーブすれば、もっとハッピー。

団塊世代へのエールを送る当コーナー、トップバッターはサラリーマンを経てマンガ家となり、ヒットを放ち続けている弘兼憲史さん。第一線でバリバリ活躍する姿からは意外ですが、「定年後は生活スタイルをもっと簡素に変えよう」という提案をしていることでも知られています。その真意はどこにあるのか、また弘兼マンガは今後どこに向かうのか?をうかがいました。

「2007年問題」は、数字のカラクリ?
既に始まっている、大量定年退職

――弘兼さんといえば、団塊世代の代表的存在と受け止められていますね。

弘兼さん(以下敬称略): いえいえ、マンガ家には僕らの世代の人が多いですよ。同世代とは限りませんが、団塊前後の世代というなら里中満智子さん、一条ゆかりさん、大和和紀さん。少女漫画の方には近い世代の方が多いですね。

――その世代が、サラリーマンであればいよいよ定年退職を迎える時期になりましたが、どう受けとめていらっしゃいますか?

弘兼: 700万人という同世代の塊を、堺屋太一さんが「団塊」と名づけたわけですよね。でも、以前から僕が指摘しているように、2007年にどっと大量退職者が出る、というのはちょっと違う。僕らの世代では家庭に入る女性が多かったし、彼女たちは団塊の世代同士の結婚も多いのですが、3~4歳年上の男性と結婚も多い。そうなると、もう定年生活に入っている同世代も多いわけですよ。

――私たちのサイトで「第二の生活」を始めている方のインタビューもしているのですが、定年後も働いている方というと、どうしても男性が多くなってしまいます。

弘兼: そうなんです、雇用機会均等法もない時代ですから、女性が社会進出するのは難しい世代ですよ。ただ、NPO法人など市民運動グループには活動的な同世代の女性が多いし、ボランティアなど市民運動はこれから男性にも広がっていくでしょうね。

常に巨大マーケットだった団塊世代。
そのエネルギーがカルチャーを生んだ。

――そんな団塊世代には、ムーブメントを作る人々というイメージがあります。

弘兼: 「団塊」という言葉にはいかにもひとつのベクトルを向いているような響きがありますが、実際は多様なる価値観をもった人間の集まりですよ。戦後の新しい教育を受けた世代ですから。平等、それから価値観は多様である、というふたつの考えを植えつけられたのが僕らなんです。

――だから、さまざまなカルチャーを生み出していったわけですね。

弘兼: 周囲が団塊を中心に、マーケットを作っていっちゃったんですよ。僕らからしたら、なんでいつも僕らを取材にくるんだろう、と思うんですよ。生まれた時はベビーブーマーで“現代っ子”と呼ばれた。大学に入ったら“漫画を読む連中”だとか言われ、就職すれば“企業戦士”、結婚すれば“ニューファミリー”、そのうち“濡れ落ち葉”なんてね。人数が多いから周囲が団塊世代を乗っけているだけですよ。

――大きなマーケットが成立している。

弘兼: 漫画ひとつとっても、団塊世代っていう大きな読み手があったから発展したわけです。そういう受け手がいるから、文化でもサブカルチャーでも道を切り開いてきている。ただ、団塊世代が世間の文化とか流行をリードしている、というのは言いすぎ。たとえば糸井重里とかね、ごく一部のメンツがばーっと文化を創っている。そして、スポーツなら尾崎、歌手なら五木ひろしや森進一、という具合にいろんなジャンルに散っているんですよね。

セカンドライフの質を決めるのはお金じゃない。
“つまようじ”程度の支えがあれば楽しく生きられる。

――弘兼さんいわく“能天気な世代”ですが、定年というインパクトはなかなか大きく、「会社を辞めてからどうしたらいいかわからない」という声が多く聞かれます。それに対する弘兼さんの答えが『団塊生活』ですが、サブタイトルはなんと“転ばぬ先のつまようじ”。

弘兼: そう、転ばぬ先の杖、ではないんです。老後の生活の支えなんてものは、大きな杖でなくても大丈夫なんだよと、むしろそういう生き方をしよう、というのがこのタイトルの意味。たとえば、現在住んでいる3LDKのマンションを2Kのアパートにする。食事だって、白米と高菜の漬物、味噌汁とじゃこで十分。考えてみればそれまでの食生活でよく残すし捨てるし、もうステーキみたいな脂っこいもの食べたくなかったりするでしょう? 友達だって、それまで会社関係の付き合いなどいろいろあったものを、本当に気の合う友人2,3人でいいじゃないか、というふうに考える。

――ものすごい価値観の転換ですね。

弘兼: でも、高等動物のひとつのワザですが、人間は変えようと思えば価値観を変えられるんですよ。たとえば象が、「いつもはこの草を食べてるけど、今日はこっちにしよう」とか価値観を変えることはできないですよね。けれど、人間は自分の意志である程度、それを変えることができるんです。

――生活全体をシェイプさせる、ということですね。

弘兼: ただし、苦しいから切り詰める、というのではない。そんなに贅沢したいのか、君たちは?という感じ(笑)。広い家だと掃除も大変だけど、2Kなら毎日ぱっとできる。だから、今まで持っていた価値観をちょっと変えることで、もっとラクに生きられますよ、という提唱なんです。

同世代と共に成長してきた弘兼ワールド。
お墓だって葬儀だって、マンガのネタになるかも?

――弘兼さんは、そういう形でものの見方をぱっと変えることができ、それが作品にもにじんでいる気がします。

弘兼: 僕はマンガを描く時、同世代を読者として想定しているんです。だから、『課長島耕作』を描いた時は自分もその年代だったし、僕の友達がそろそろ部長になってきたら『部長島耕作』、今は『専務島耕作』です。

――自分が年齢を重ねていくと共に、作品も成長する。

弘兼: そうなりますね。だから自分が中年の時は、どうしても若い男女が主役じゃないラブストーリーを描きたくて『黄昏流星群』が生まれた。もっと年をとったら、お墓探しのマンガを描くかも(笑)。

――これからの超高齢化社会を前に、需要はありそうですね(笑)。

弘兼: そうそう、新しくビジネスを興すなら葬祭ビジネスですよ。これから団塊の世代が否が応でも死んでいくわけだから(笑)。うん、次の本のタイトルはそれにしよう、『団塊最後のひとり』。700万人の団塊世代が死んでゆき、最後のひとりはどんなやつなのか。これ、みてみたいなあ(笑)。

プロフィール

弘兼憲史(ひろかねけんし) さん

マンガ家。1947年生まれ。『風薫る』でデビュー後、『加治隆介の議』『島耕作』シリーズでサラリーマンから絶大な支持を得る。『黄昏流星群』ではそれまで無視されてきた中高年の恋愛を描き話題に。同世代にエールを送る発言も多く、エッセイも注目を集めている。

近著コラム

『団塊生活――転ばぬ先のつまようじ』(角川書店) セカンドライフを充実させるための弘兼さんの智恵が詰まったエッセイ。価値観を逆転させる生活スタイルの提案、さらには熟年離婚や50歳からの恋愛、介護についてなど、団塊世代ならずとも気になる話題が盛りだくさん。

弘兼流・OVER60の過ごし方

仕事はいつまで続けますか?
自分の体が動かなくなるまで。ペンを持ったまま机の上に突っ伏して死ぬのが理想。

働かないシニアライフを送りたいと思いますか?
思いません。貧乏性で、8時間寝ていると「もっと楽しいことがあるんじゃないか」ともったいない気持ちになる。じっとしているのが苦痛だし、働くことそのものがある種の社会貢献にもなる職業なので、働かない自分は想像できない。

60歳以降、自分の仕事スタイルを変えますか?
変えるつもりはない。仕事が少なくなったらいいなとは思うが、今のところはそうならないので、せめてゴルフを月に2回できるペースにはしたい。

仕事、家族、友人、趣味、優先順位をつけるとしたら?
仕事…正直言いづらい(笑)。あとはわからない、家族がいちばん最後にきたらどうするんだ?

仕事を続ける上で気をつけていることは?
締切を守る。人生に計画性はないが、仕事にはある。

10年後の自分は何をしていると思う?
現在と同じようにこの業界にいる。

60歳を迎えたら、新しく始めたい趣味はありますか?
我流なので、一度、ちゃんとした料理教室に通いたい。

団塊世代に推薦する本は?
黄昏流星群

この人のシニアライフは理想的だな、と思う人は?
藤村俊二さん。ワインバー経営など仕事と人生の両方を楽しんでるので。

団塊世代にメッセージをひとこと。
60代は、50代より3倍楽しい。お楽しみはこれからです。

どうなる?島耕作の定年問題

『島耕作』シリーズサラリーマンのバイブルとも言うべき『島耕作』シリーズ、実はオフィスラブを描いた読みきり作品としてスタートしたのだそう。それまでのサラリーマンマンガといえばコミカルなものばかりだったが、弘兼さん自身のサラリーマン経験を生かしたリアルな描写で空前のヒットに。情報を得るために真剣に読んでいるサラリーマンも多く、女性との絡みが多いと「もっと仕事をさせろ」という文句の手紙が寄せられ、それでは、と仕事をさせると「最近は女が出てこなくてだめだ」という意見がくるのだとか。そのバランスをとりつつ描いているうちに、とうとう島耕作も専務に。今後、『社長島耕作』はありうるのか?との質問に、「選択肢はいろいろありますよね、社長だったら定年がないから100歳までやってもいいし、定年になって『NPO島耕作』だっていい」と弘兼さん。

課長島耕作  常務島耕作